記事一覧

過去のニュース

●2009年9月:任意団体として、「東京23区研究所」が発足。

●2010年4月:「東京23区 データでわかる区の実力」を『ダイヤモンド・オンライン』に連載開始。

●2010年8月:テレビ東京 日曜ビッグバラエティ「東京23区なんでもランキングツアー」の番組制作に協力、所長・池田利道が出演(2011年8月8日放映)。
 http://www.tv-tokyo.co.jp/sun/backnumber/313.html

●2010年9月:雑誌『anan』(マガジンハウス)の取材に協力。掲載記事「東京23区を分析。区民性を発表します!」の監修。(掲載誌は1728号)

●2010年10月:「東京23区 データでわかる区の実力](ダイヤモンド・オンライン)が完結。最終回の「港区―思わず「ビバ!」と叫びたくなる高級外の驚くべきセレブぶり」が同サイトの閲覧数ベスト5入り。
 http://diamond.jp/category/s-tokyo

●2010年12月:「“街歩き”がもっと面白くなる! 東京23区の商店街 データでわかるパワーと魅力」を『ダイヤモンド・オンライン』に連載開始。
 http://diamond.jp/category/s-shoutengai

●2011年6月:「“街歩き”がもっと面白くなる! 東京23区の商店街 データでわかるパワーと魅力」(ダイヤモンド・オンライン)が完結。

●2011年7月:「東京23区研究所」が「一般社団法人 東京23区研究所」として正式に発足。

●2011年7月:「東京23区 安心・安全な街」を『ダイヤモンド・オンライン』に連載開始。
 http://diamond.jp/category/s-tokyosafe

●2012年2月:「東京23区 安心・安全な街」(ダイヤモンド・オンライン)が完結。

●2012年3月:『SUUMO新築マンション』(リクルート)3月13日号に、所長・池田利道へのインタビュー記事が掲載される。

(仮説)港区には何故高額所得者が多いのか?  その3

3.トレンディ要因の分析


●「タウン型再開発」が港区の所得水準向上を牽引

 図1に1人当たり所得額の推移をバブル崩壊後という長期トレンドで見た結果を示す。

 23区平均は近5年間でやや上向きの傾向にあるが、さほど大きな変化は見られない。一方、都心区では2000年頃から所得水準が上昇する傾向が現われ始め、さらに2003年以降その速度が増している。これは、先に記した「都心生活を楽しむライフスタイルへの注目が、それを実現することのできる高額所得者の都心居住の増大を生んでいる」との仮説を裏づけるものと言える。

 なかでも港区はこの傾向が顕著であるが、とりわけ注目されるのは2004年以降の急上昇である。2003年の六本木ヒルズオープン以降、汐留シオサイト、東京ミッドタウン、赤坂サカスと、港区内では超高級レジデンシャル機能を備えた大規模な「タウン型」の再開発が相次いでいる。これらがマスコミ等で取り上げられ、その結果として港区のブランド力に新たな要素が加わり、ますます高額所得者の集積が進むというスパイラルをここに見ることができる。


図1 千代田、港、渋谷各区及び23区平均の1人当たり所得額の推移

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※図はクリックすると大きくなります。

●所得水準の上昇を底辺から支える都市の成長力

 高額所得者集中を生む背景となった港区のスパイラル的な成長は、よりベーシックな都市指標においてもみることができる。

 国勢調査からみた東京23区の人口は、バブル崩壊後の1995年に底を打った後増加に転じ、2010年には対95年比で10.5%の増を示している(2010年は東京都による推計値)。港区の人口増加ペースはこれを大きく上回り、同じ15年間で48.3%にのぼる。これは、大中小様々な規模の再開発が進み、都心居住のもう一つの受け皿となっている中央区の81.8%に次ぐ高比率である。

 企業の集積にも港区の成長力が端的に示されている。2006年の「事業所・企業統計」における港区の事業所数は23区中トップ。しかも5年前と比べ東京23区全体の事業所数は5.1%減少しているのに対し、港区は8.8%の増加である。因みに港区以外の22区のうちで、この間に事業所数が増えたのは渋谷区の4.0%のみである。人口増が著しい中央区も事業所数は2%減っており、その結果2001年には事業所数トップであったものが、2006年には港区に抜かれ第2位に転落している。

 このように近年の企業の集積は、まさに港区の「一人勝ち」の感が強い。さらに、都市型産業の典型として今後大きな成長余力が期待される情報通信業の集積や美術・写真・デザイン・音楽といったクリエイティブ職の集積が23区中最大であることは、今後の一層の成長を予測させる。
?こうした港区の未来に向けた成長力が、まちのブランドイメージをさらに高め、高額所得者集積のスパイラルを底辺から支えていると考えられる。

●実態に支えられた高水準の地価

 最後に、高額所得者の集積と直接的な関係が強いと考えられる地価について触れておく。

 2010年1月1日現在の地価公示による住宅地の平均地価は、千代田区がトップで1㎡あたり186万円、港区が第2位で131万円、渋谷区が第3位で95万円と、所得水準が高いトップ3がやはり地価も高額となっている。地価の順位としては港区は2位だが、1位の千代田区は面積が狭い上にさらに住宅地が少なく、稀少価値を持つことを割り引いて考えねばならないであろう。

 一方、こちらは毎年7月に調査される基準地価の推移(住宅地の平均価格の増加率)を、リーマン・ショック直前の2008年とその5年前である2003年の2時点で比較すると、23区全体では1.2倍強の伸びであるのに対し、港区は1.6倍以上の伸びを示している。千代田、渋谷、中央、文京といった都心各区が1.4倍台の伸びであることと比べても、港区の地価上昇は頭一つ抜け出している。

 地価の動向は投機的要素も絡むことから、時としてバブル的な高騰を示すこともある。しかし、港区の地価上昇は、これまでみてきた高い成長性を背景として高額所得者の集積が進むという実態に支えられてものである。

 ごく単純に言うと、地価が高ければ低所得者は住み続けることが困難となり、やがて高額所得者が集積するようになる。とはいえ、複雑系の代表である都市ではそう単純にことが運ぶ訳ではなく、極端な例では高地価の都心部にスラム的なエリアが発生することもある。その意味では、高地価は高額所得者集積の結果であると考えた方が良く、それが実態に明確に裏づけられた結果となった時、初めて高額所得者の集積をもたらす要因ともなってくる。港区では、こうした地価を媒介とした所得水準向上のスパイラルも確実に生じつつあると考えられる。

 《完》

(仮説)港区には何故高額所得者が多いのか?  その2

2.ベーシック要因の分析


●屋敷町としての伝統

 麻布、赤坂、青山、白金、高輪等々、港区内には「屋敷町」の伝統を残す高級住宅地が広がっている。これは、港区が江戸時代において、江戸朱引地内という当時の東京エリア(現在に照らすとほぼ地下鉄大江戸線のエリア内)における、山の手武家地であった歴史にまで辿る。

 明治期以降、これらの屋敷地は単に高級住宅地が広がるだけでなく、その生活需要を満たす商業地が「坂下」を中心に形成され、それらが現在も残り続けて、生活に便利な都市空間が維持されてきた。

 屋敷地に付随して明治期に整備された教育施設の充実も、港区の大きな特徴である。これら私立教育機関の存在は「お受験時代」の今日、港区の付加価値を高める存在としての役割を担っている。

●エリアブランドの形成

 屋敷町の伝統は「ハイソサエティ」という地域ブランドを生み出したが、これを象徴する代表的な存在は80か国近くの外国大使館の立地であろう。

 港区の外国人登録人口の総居住人口に占める比率は10.5%。実に居住者の1割以上が外国人である。なお、外国人比率は新宿区(15.8%)に次いで2位であるが、新宿区がアジア系中心であるのに対し、港区は欧米系が中心。東京23区に在住する北米国籍の28%、欧州国籍の21%が港区に居住しており、総居住人口に占める北米・欧州人の比率は5.0%にのぼる。これは2位の渋谷区(2.4%)を2倍以上上回っている。

●ゆとりある住宅

 屋敷町の伝統がデータとなって現われてくるのは住宅の広さである。

 2003年の「住宅・土地統計」によると、23区の中で1住宅当たりの延べ面積が最も広いのは台東区の71.6㎡であり、港区は70.2㎡で第2位である。しかし、台東区は店舗や作業場を併設した「併用住宅」の比率が11.5%と23区中最も多く(港区は2.3%で、23区平均の3.4%を下回る)、このため1住宅の居住室の広さは27.2畳(フローリング等の畳敷でない居室も畳数に換算した数値)と23区中最大を誇る(2位は千代田区の24.6畳)。また、1人当たりの居住室畳数も14.0畳と第1位で、2位の千代田区(12.2畳)を約1.2倍上回っている。

 港区の住宅のもう一つの特徴は借家が充実していることである。持ち家の広さでは、世田谷区や杉並区といった郊外区の後塵を拝するが、借家の延べ面積は53.4㎡で、2位の千代田区(45.5㎡)の約1.2倍。持ち家の獲得が絶対的に重視され、借家は文字通り「仮の住まい」との意識が強い我が国にあって、借家生活というアメリカ型ライフスタイルをゆったりと楽しむことができるのも、港区の特徴の一つと言うことができる。

●意外と多い緑

 港区の公園面積比率は、江戸川区(15.2%)、千代田区(14.5%)、渋谷区(10.8%)、江東区(10.2%)、台東区(7.7%)に次いで第6位の6.8%。都心区としては公園の緑も豊かであると一応の評価はできるが、上位の江戸川区や千代田区と比べると半分以下で見劣りは否めない。

 一方、緑被率(定義があいまいであり、かつ調査年次が各区で異なるため一概な比較はできないという限界がある)は20.5%で、練馬、世田谷、杉並、渋谷の各区に次いで5位。さらに緑被率から公園面積比率を差し引いた、身近な緑地の比率も練馬、世田谷、杉並、大田の各区に次いで5位である。練馬、世田谷、杉並、大田という田園部がまだ残存する周辺郊外区に比し、都心の港区が緑被率で上位に位置するのは、屋敷内の樹木をはじめとする「都市としての緑」の充実度が高いと誇ることができる。

●エスタブリッシュメント層が多い

 表3及び表4は、2005年国勢調査における区内在住の就業者に占める企業役員の比率と管理的職業従事者の比率の23区内でのランキングを示したものである。

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 ともに、港区は千代田区に次いで第2位であり、エスタブリッシュメント層の多い区だと言うことができる。なお、エスタブリッシュメントを示すもう一つの指標と考えられる専門・技術職の比率も23区中第7位と健闘している。

 ここで、エスタブリッシュメント層をもう少し詳細に捉えるために、下記の①+②と定義することとする。

①専門技術職ならびに管理職に従事する役員
②管理職のうち常雇用者

 ①は現場からのいわゆる「タタキ上げ」の役員を除いた字義通りエスタブリッシュメントの役員を指し、②は企業の非役員の管理職を指す。

 表5にこの定義に基づくエスタブリッシュメント層の就業者に占める比率のランキングを示す。1位~3位は表1に示した1人当たり所得ランキングと完全に合致している。さらに4位以下も高い相関を示しており、エスタブリッシュメント層の集積が所得水準の高さと密接な関係があることが分かる。

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《次回は、3.トレンディ要因の分析です。》

企業

■株式会社 ノラ・コミュニケーションズ

東京都新宿区高田馬場2-14-6 アライビル7F 
〒169-0075 TEL 03-3204-9401 FAX 03-3204-9402
http://www.noracomi.co.jp/

■アイノバ株式会社

東京都港区東麻布2-28-6 TAC東麻布501
〒106-0044 TEL 03-6277-6172 FAX 03-6277-6174
http://ainova.jp/index.html

■まちづくりホームプランナー事業協同組合

東京都渋谷区渋谷 3-27-4 
〒150-0002 TEL 03-5467-6975 FAX 03-5467-8024
http://www.machizukuri.org/index.html

(仮説)港区には何故高額所得者が多いのか?  その1

赤坂・六本木・麻布十番など、人気スポットの多い港区。東京タワーも、芝増上寺も、四十七士の墓で知られる泉岳寺も、芝離宮庭園もある港区。港区は、“セレブ”の区、お金持ちの多い区とよく言われる。本当に高額所得者が多いのか、また、そうであるなら、それはなぜか


1.総 説

●高額所得者を把握する指標

 2007年度所得に対する申告納税者(≒確定申告者)のうち、所得が5千万円を超える高額所得者の比率は、港区が9.0%で最も多く、2位千代田区(6.9%)、3位渋谷区(6.0%)を大きく上回っている。

 しかし、上記統計にはサラリーマン(企業から定まった報酬を得ている役員を含む)の大多数にのぼる源泉徴収のみの人の所得が反映されておらず、その多くが利子、配当、不動産等によって主たる所得を得ている、いわゆる「資産家」か、確定申告が必要な収入2千万円超の高額給与所得者に限られている。

 従って、以下の分析においては、所得をよりトータルに捉え、かつ経年比較や地域間比較のデータも整備されている課税対象所得(具体的には、納税義務者1人当たりの課税対象所得)を基本指標に据えることとする。

 なお、上記高額所得者比率(5千万円以上の申告納税者比率)と納税義務者1人当たり課税所得は、東京23区における1位~3位の順位が完全に重なることをはじめ相対比較上大きな差異はないと考えてよい。


●東京にはそもそも高額所得者が多い

 表1に、2008年の納税義務者1人当たり課税対象所得額(以下「1人当たり所得額」と略す)の、区市町別(区は東京23区のみで、政令指定都市の行政区は含まない)ランキングを示す。

 東京23区内の各区がベスト4を独占し、またベスト10の中でも8つを東京23区が占めている。こうした傾向は過去においても同様に指摘でき、東京にはそもそも高所得者が多いという特徴がある。

 因みに、東京23区を1つの自治体とみなした時のランキングは、1位芦屋市、2位武蔵野市、3位浦安市、4位鎌倉市に次ぎ、東京23区が第5位にランクインしてくる。


●都心ライフスタイルの注目が高額所得者の東京都心回帰を促している

 東京23区を1つの自治体とみなした時の1人当たり所得額のランキングは、1998年が48位、2003年が18位、2008年には上述のとおり5位と、東京23区の順位は近年急上昇している。

 この背景には、かつてみられた都心から郊外へのドーナツ化現象の逆作用として、近年都心回帰が一つのトレンドとなり、都心生活を楽しむライフスタイルが着目される中で、地価が高騰した都心に住むことができるのは、高額所得者に限られるという現実が存在していると考えられる。


表1 1人当たり所得額ランキング(2008年)

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 なお、近畿大学建築学科住環境計画研究所の牧田卓也氏の研究によると、高額所得者は近畿圏では郊外の屋敷町への居住指向が強いのに対し、東京圏では都心部でのマンション居住指向が強いと指摘されている。高額所得者の23区への回帰傾向が東京で強いのも、こうした居住性向が少なからず影響しており、かつそれは現在の所、東京に特有の傾向となっていると言うことができる。


●港区に高額所得者が多い2つの要因

 表2に、1998年時点の1人当たり所得額の区市町村別ランキングを示す。

表2 1人当たり所得額ランキング(1998年)

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 ここでも23区が上位を独占し、港区は第2位にランクアップされている。つまり港区には、もともと高額所得者の居住が多かったのである。

 これらを考え合わすと、港区に高額所得者が多い理由は、次の2つの側面から捉えていく必要があることになる。

①そもそも高額所得者が多く居住するというベーシックな要因
②近年高額所得者の居住が急増しているというトレンディな要因

《次回は、2.ベーシック要因の分析》