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(仮説)港区には何故高額所得者が多いのか?  その2

2.ベーシック要因の分析


●屋敷町としての伝統

 麻布、赤坂、青山、白金、高輪等々、港区内には「屋敷町」の伝統を残す高級住宅地が広がっている。これは、港区が江戸時代において、江戸朱引地内という当時の東京エリア(現在に照らすとほぼ地下鉄大江戸線のエリア内)における、山の手武家地であった歴史にまで辿る。

 明治期以降、これらの屋敷地は単に高級住宅地が広がるだけでなく、その生活需要を満たす商業地が「坂下」を中心に形成され、それらが現在も残り続けて、生活に便利な都市空間が維持されてきた。

 屋敷地に付随して明治期に整備された教育施設の充実も、港区の大きな特徴である。これら私立教育機関の存在は「お受験時代」の今日、港区の付加価値を高める存在としての役割を担っている。

●エリアブランドの形成

 屋敷町の伝統は「ハイソサエティ」という地域ブランドを生み出したが、これを象徴する代表的な存在は80か国近くの外国大使館の立地であろう。

 港区の外国人登録人口の総居住人口に占める比率は10.5%。実に居住者の1割以上が外国人である。なお、外国人比率は新宿区(15.8%)に次いで2位であるが、新宿区がアジア系中心であるのに対し、港区は欧米系が中心。東京23区に在住する北米国籍の28%、欧州国籍の21%が港区に居住しており、総居住人口に占める北米・欧州人の比率は5.0%にのぼる。これは2位の渋谷区(2.4%)を2倍以上上回っている。

●ゆとりある住宅

 屋敷町の伝統がデータとなって現われてくるのは住宅の広さである。

 2003年の「住宅・土地統計」によると、23区の中で1住宅当たりの延べ面積が最も広いのは台東区の71.6㎡であり、港区は70.2㎡で第2位である。しかし、台東区は店舗や作業場を併設した「併用住宅」の比率が11.5%と23区中最も多く(港区は2.3%で、23区平均の3.4%を下回る)、このため1住宅の居住室の広さは27.2畳(フローリング等の畳敷でない居室も畳数に換算した数値)と23区中最大を誇る(2位は千代田区の24.6畳)。また、1人当たりの居住室畳数も14.0畳と第1位で、2位の千代田区(12.2畳)を約1.2倍上回っている。

 港区の住宅のもう一つの特徴は借家が充実していることである。持ち家の広さでは、世田谷区や杉並区といった郊外区の後塵を拝するが、借家の延べ面積は53.4㎡で、2位の千代田区(45.5㎡)の約1.2倍。持ち家の獲得が絶対的に重視され、借家は文字通り「仮の住まい」との意識が強い我が国にあって、借家生活というアメリカ型ライフスタイルをゆったりと楽しむことができるのも、港区の特徴の一つと言うことができる。

●意外と多い緑

 港区の公園面積比率は、江戸川区(15.2%)、千代田区(14.5%)、渋谷区(10.8%)、江東区(10.2%)、台東区(7.7%)に次いで第6位の6.8%。都心区としては公園の緑も豊かであると一応の評価はできるが、上位の江戸川区や千代田区と比べると半分以下で見劣りは否めない。

 一方、緑被率(定義があいまいであり、かつ調査年次が各区で異なるため一概な比較はできないという限界がある)は20.5%で、練馬、世田谷、杉並、渋谷の各区に次いで5位。さらに緑被率から公園面積比率を差し引いた、身近な緑地の比率も練馬、世田谷、杉並、大田の各区に次いで5位である。練馬、世田谷、杉並、大田という田園部がまだ残存する周辺郊外区に比し、都心の港区が緑被率で上位に位置するのは、屋敷内の樹木をはじめとする「都市としての緑」の充実度が高いと誇ることができる。

●エスタブリッシュメント層が多い

 表3及び表4は、2005年国勢調査における区内在住の就業者に占める企業役員の比率と管理的職業従事者の比率の23区内でのランキングを示したものである。

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 ともに、港区は千代田区に次いで第2位であり、エスタブリッシュメント層の多い区だと言うことができる。なお、エスタブリッシュメントを示すもう一つの指標と考えられる専門・技術職の比率も23区中第7位と健闘している。

 ここで、エスタブリッシュメント層をもう少し詳細に捉えるために、下記の①+②と定義することとする。

①専門技術職ならびに管理職に従事する役員
②管理職のうち常雇用者

 ①は現場からのいわゆる「タタキ上げ」の役員を除いた字義通りエスタブリッシュメントの役員を指し、②は企業の非役員の管理職を指す。

 表5にこの定義に基づくエスタブリッシュメント層の就業者に占める比率のランキングを示す。1位~3位は表1に示した1人当たり所得ランキングと完全に合致している。さらに4位以下も高い相関を示しており、エスタブリッシュメント層の集積が所得水準の高さと密接な関係があることが分かる。

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《次回は、3.トレンディ要因の分析です。》