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(仮説)港区には何故高額所得者が多いのか?  その1

赤坂・六本木・麻布十番など、人気スポットの多い港区。東京タワーも、芝増上寺も、四十七士の墓で知られる泉岳寺も、芝離宮庭園もある港区。港区は、“セレブ”の区、お金持ちの多い区とよく言われる。本当に高額所得者が多いのか、また、そうであるなら、それはなぜか


1.総 説

●高額所得者を把握する指標

 2007年度所得に対する申告納税者(≒確定申告者)のうち、所得が5千万円を超える高額所得者の比率は、港区が9.0%で最も多く、2位千代田区(6.9%)、3位渋谷区(6.0%)を大きく上回っている。

 しかし、上記統計にはサラリーマン(企業から定まった報酬を得ている役員を含む)の大多数にのぼる源泉徴収のみの人の所得が反映されておらず、その多くが利子、配当、不動産等によって主たる所得を得ている、いわゆる「資産家」か、確定申告が必要な収入2千万円超の高額給与所得者に限られている。

 従って、以下の分析においては、所得をよりトータルに捉え、かつ経年比較や地域間比較のデータも整備されている課税対象所得(具体的には、納税義務者1人当たりの課税対象所得)を基本指標に据えることとする。

 なお、上記高額所得者比率(5千万円以上の申告納税者比率)と納税義務者1人当たり課税所得は、東京23区における1位~3位の順位が完全に重なることをはじめ相対比較上大きな差異はないと考えてよい。


●東京にはそもそも高額所得者が多い

 表1に、2008年の納税義務者1人当たり課税対象所得額(以下「1人当たり所得額」と略す)の、区市町別(区は東京23区のみで、政令指定都市の行政区は含まない)ランキングを示す。

 東京23区内の各区がベスト4を独占し、またベスト10の中でも8つを東京23区が占めている。こうした傾向は過去においても同様に指摘でき、東京にはそもそも高所得者が多いという特徴がある。

 因みに、東京23区を1つの自治体とみなした時のランキングは、1位芦屋市、2位武蔵野市、3位浦安市、4位鎌倉市に次ぎ、東京23区が第5位にランクインしてくる。


●都心ライフスタイルの注目が高額所得者の東京都心回帰を促している

 東京23区を1つの自治体とみなした時の1人当たり所得額のランキングは、1998年が48位、2003年が18位、2008年には上述のとおり5位と、東京23区の順位は近年急上昇している。

 この背景には、かつてみられた都心から郊外へのドーナツ化現象の逆作用として、近年都心回帰が一つのトレンドとなり、都心生活を楽しむライフスタイルが着目される中で、地価が高騰した都心に住むことができるのは、高額所得者に限られるという現実が存在していると考えられる。


表1 1人当たり所得額ランキング(2008年)

ファイル 7-1.gif
 なお、近畿大学建築学科住環境計画研究所の牧田卓也氏の研究によると、高額所得者は近畿圏では郊外の屋敷町への居住指向が強いのに対し、東京圏では都心部でのマンション居住指向が強いと指摘されている。高額所得者の23区への回帰傾向が東京で強いのも、こうした居住性向が少なからず影響しており、かつそれは現在の所、東京に特有の傾向となっていると言うことができる。


●港区に高額所得者が多い2つの要因

 表2に、1998年時点の1人当たり所得額の区市町村別ランキングを示す。

表2 1人当たり所得額ランキング(1998年)

ファイル 7-2.gif


 ここでも23区が上位を独占し、港区は第2位にランクアップされている。つまり港区には、もともと高額所得者の居住が多かったのである。

 これらを考え合わすと、港区に高額所得者が多い理由は、次の2つの側面から捉えていく必要があることになる。

①そもそも高額所得者が多く居住するというベーシックな要因
②近年高額所得者の居住が急増しているというトレンディな要因

《次回は、2.ベーシック要因の分析》