3.トレンディ要因の分析
●「タウン型再開発」が港区の所得水準向上を牽引
図1に1人当たり所得額の推移をバブル崩壊後という長期トレンドで見た結果を示す。
23区平均は近5年間でやや上向きの傾向にあるが、さほど大きな変化は見られない。一方、都心区では2000年頃から所得水準が上昇する傾向が現われ始め、さらに2003年以降その速度が増している。これは、先に記した「都心生活を楽しむライフスタイルへの注目が、それを実現することのできる高額所得者の都心居住の増大を生んでいる」との仮説を裏づけるものと言える。
なかでも港区はこの傾向が顕著であるが、とりわけ注目されるのは2004年以降の急上昇である。2003年の六本木ヒルズオープン以降、汐留シオサイト、東京ミッドタウン、赤坂サカスと、港区内では超高級レジデンシャル機能を備えた大規模な「タウン型」の再開発が相次いでいる。これらがマスコミ等で取り上げられ、その結果として港区のブランド力に新たな要素が加わり、ますます高額所得者の集積が進むというスパイラルをここに見ることができる。
図1 千代田、港、渋谷各区及び23区平均の1人当たり所得額の推移
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●所得水準の上昇を底辺から支える都市の成長力
高額所得者集中を生む背景となった港区のスパイラル的な成長は、よりベーシックな都市指標においてもみることができる。
国勢調査からみた東京23区の人口は、バブル崩壊後の1995年に底を打った後増加に転じ、2010年には対95年比で10.5%の増を示している(2010年は東京都による推計値)。港区の人口増加ペースはこれを大きく上回り、同じ15年間で48.3%にのぼる。これは、大中小様々な規模の再開発が進み、都心居住のもう一つの受け皿となっている中央区の81.8%に次ぐ高比率である。
企業の集積にも港区の成長力が端的に示されている。2006年の「事業所・企業統計」における港区の事業所数は23区中トップ。しかも5年前と比べ東京23区全体の事業所数は5.1%減少しているのに対し、港区は8.8%の増加である。因みに港区以外の22区のうちで、この間に事業所数が増えたのは渋谷区の4.0%のみである。人口増が著しい中央区も事業所数は2%減っており、その結果2001年には事業所数トップであったものが、2006年には港区に抜かれ第2位に転落している。
このように近年の企業の集積は、まさに港区の「一人勝ち」の感が強い。さらに、都市型産業の典型として今後大きな成長余力が期待される情報通信業の集積や美術・写真・デザイン・音楽といったクリエイティブ職の集積が23区中最大であることは、今後の一層の成長を予測させる。
?こうした港区の未来に向けた成長力が、まちのブランドイメージをさらに高め、高額所得者集積のスパイラルを底辺から支えていると考えられる。
●実態に支えられた高水準の地価
最後に、高額所得者の集積と直接的な関係が強いと考えられる地価について触れておく。
2010年1月1日現在の地価公示による住宅地の平均地価は、千代田区がトップで1㎡あたり186万円、港区が第2位で131万円、渋谷区が第3位で95万円と、所得水準が高いトップ3がやはり地価も高額となっている。地価の順位としては港区は2位だが、1位の千代田区は面積が狭い上にさらに住宅地が少なく、稀少価値を持つことを割り引いて考えねばならないであろう。
一方、こちらは毎年7月に調査される基準地価の推移(住宅地の平均価格の増加率)を、リーマン・ショック直前の2008年とその5年前である2003年の2時点で比較すると、23区全体では1.2倍強の伸びであるのに対し、港区は1.6倍以上の伸びを示している。千代田、渋谷、中央、文京といった都心各区が1.4倍台の伸びであることと比べても、港区の地価上昇は頭一つ抜け出している。
地価の動向は投機的要素も絡むことから、時としてバブル的な高騰を示すこともある。しかし、港区の地価上昇は、これまでみてきた高い成長性を背景として高額所得者の集積が進むという実態に支えられてものである。
ごく単純に言うと、地価が高ければ低所得者は住み続けることが困難となり、やがて高額所得者が集積するようになる。とはいえ、複雑系の代表である都市ではそう単純にことが運ぶ訳ではなく、極端な例では高地価の都心部にスラム的なエリアが発生することもある。その意味では、高地価は高額所得者集積の結果であると考えた方が良く、それが実態に明確に裏づけられた結果となった時、初めて高額所得者の集積をもたらす要因ともなってくる。港区では、こうした地価を媒介とした所得水準向上のスパイラルも確実に生じつつあると考えられる。
《完》