どこにあると言われても、今、地図を広げたところで、どこにも見つかりません。ただ、かつては、確かにあったのです。場所は、今の23区に相当する区域です。
東京市だけではなく、「東京府」もありました。ちょうど、今でも、大阪府があり、その中に大阪市がある。京都府があり、京都市がある。それと同じように、東京府東京市があったのです。
やがて、第二次世界大戦中の1943(昭和18)年に、東京府は「東京都」となり、東京市は消滅します。
東京市が誕生するのは、1889(明治22)年5月1日のことです。これより先、1878(明治11)年には、東京府に「15区」が置かれていました。これが、今日の23区の母体を成すものですが、この15区は、郡区町村編制法によって設けたれたもので、現在の千代田区、中央区、港区、新宿区(一部)、文京区、台東区、墨田区(一部)、江東区(一部)の範囲でした。つまり、今の23区よりはかなり狭い区域ですね。
その15区の範囲に、市制町村制の施行によって、「基礎的自治団体」としての東京市が設置されたのです。その後も存続します。このとき、周辺6郡には町村合併によって85の町村が成立しました。15区はその後も、東京市の下部組織として存続します。
東京市は、「憲政の神様」と讃えられた尾崎行雄(咢堂)、「大風呂敷」の異名をとった後藤新平など、幾多の歴史上のスターたちが市長を務めています。
昨、2011年は、東日本大震災という大災害が日本を襲いました。今からおよそ90年前の1923(大正12)年にも、同じく忌まわしい大震災がありました。関東大震災です。その震災に見舞われたこの東京市も、死者10万人といわれる大きな犠牲を出しました。
その震災からの復興が進む1932(昭和7)年、一挙にその市域を拡大します。このとき、およそ今の23区に相当する市域となりますが、区は35区に分かれました。市域の拡大とともに、それまでの15区から20区も区が増えたわけです。
35区を擁する東京市も、第二次大戦の戦禍に呑みこまれていきます。戦時中の1943(昭和18)年、「東京都制」という法律によって、東京府が東京都となったのは、前述のとおりですが、このとき、東京市は廃止され、消滅するのです。その下部組織であった35区のみが残りました。
<理事・研究員 小口 達也>