《観ずる東京23区 その5》
東京イルミネーション考
東京23区研究所 所長 池田利道
過ぎたるは及ばざるがごとし
丸の内で、思いのほか用が長引いた。外に出ると、暮れ初めた丸の内仲通りをイルミネーションが彩っていた。
十数年前、同じ丸の内仲通りを飾った「東京ミレナリオ」は、華麗な光の祭典が目を驚かせた。今は、シャンパンゴールド一色。丸の内らしい気品に溢れる。復元なった東京駅の淡いライトアップともよく似合う。
いやいや、丸の内ではド派手なイベントが用意されていた。12月21日から始まった「東京ミチテラス」だ。目玉は、東京駅の赤レンガ駅舎をスクリーンに見立てた光のショー「TOKYO HIKARI VISION」。余りの前評判の高さに大混雑を極め、23日を最後に打ち切られてしまったとか。
「過ぎたるは及ばざるがごとし」の教訓を残す、イソップ童話のような結末となった。
いずれ菖蒲(あやめ)か杜若(かきつばた)
すっかりクリスマスシーズンの風物詩となったストリートイルミネーション。まち毎に技術と演出を競い、毎年進化を続けている。
東京のイルミネーションのさきがけは表参道。始まりは1991年というから20年以上前のことだ。混雑やゴミの散乱が問題化し、一たん中止されたが、2009年から再復活している。
と思いきや、表参道にイルミネーションが灯っていない。今年は思い切って趣向を変え、主要な商業施設とラルフローレン前のまちかど庭園に、光のモニュメントを飾る。テーマは、ウォルト・ディズニー生誕110周年。表参道ヒルズの吹き抜け大階段では、ディズニーキャラクターたちが舞踏会を繰り広げていた。
●表参道ヒルズのクリスマスモニュメント
※画像はクリックで拡大
まちかど庭園に設けられたフォトスポットには、カップルの長い行列。「特別なまちで、特別な想い出を」。さすがイルミネーションの老舗。“技あり!”の感がある。
イルミネーションといえば、六本木のけやき坂も見逃せない。丸の内仲通りは1.2km。表参道は1km。これらに比べ、けやき坂は400m。コンパクトではあるが、微妙にカーブする坂道と、正面に望む東京タワーのライトアップが、シンボリックな空間を生み出している。1時間に2回、煌めきが流れるように変化する演出が今年の見せ場である。
2,000㎡の芝生広場を光が埋める東京ミッドタウンの「スターライトガーデン」も、上下左右に光が動くモーション・イルミネーションが初お目見え。六本木では、「動き」が進化のテーマのようだ。
汐留も負けてはいない。カラフルなイルミネーションに、3Dプロジェクションマッピングとオリジナルな音楽が合わさる幻想的な「リュミエの森」が、カレッタプラザに出現する。
他にも、お台場や東京スカイツリーなどなど。光の饗宴が東京中で繰り広げられている。
チリも積もれば山となる
イルミネーション進化のもう一つの共通テーマは省エネ。消費電力が少ないLEDの使用は当たり前。さらにその上を行く省エネ努力が課題とされる。
例えば、100万個を超える電球を使う丸の内イルミネーションでは、従来のLED電球の3倍の照度を持ちながら、システム制御によって消費電力を約3分の1に抑える技術を導入している。
「イルミネーション用の電力を風力発電で賄っている」と謳う六本木ヒルズでは(六本木ヒルズに風車がある訳ではない。イルミネーション用の電力使用量に匹敵するグリーン電力証書を、風力発電事業者から購入しているのが実態である)、再生可能エネルギーであっても節電すべしと、今年は昨年に比べて電力使用量を半減させた。
それでも、けやき坂、毛利庭園、66プラザを合わせ約52万個の電球が、期間中に消費する電力の総量は1万kWhを超える。標準世帯が1日に使う電気の量は平均で10Wh程度。六本木ヒルズだけで1千世帯、4千人分に匹敵する。東京中を集めれば、数万人分をはるかに超える規模となる。
のど元過ぎれば?
3.11を契機に、私たちは当たり前に存在すると考えていた「文明生活」なるものを、改めて問い直した。なかでも、電力制限令が出てもさほど困らなかったことは、いかにエネルギーを浪費していたかを実感させた。それが早くも忘れられているとしたなら、由々しき事態である。
東京電力管内の12月24日午後8時の使用電力は、2008年~2010年の平均が4,171万kW。2011年が3,995万kW。2012年は4,164万kW。震災前の水準に戻っている。
もう少し、細かくデータを検証しよう。平日の代表として、毎月最終金曜日(ただし、4月はGWの影響があるため第3金曜日)の午後8時を比較してみる。3月~11月の平均は、震災前(2008年~2010年の平均)が3,929万kW。2011年が3,428万kW。2012年が3,565万kW。節電が至上命題とされた去年よりは増えているものの、震災前と比べると今年もしかり減っている。
電気の浪費はダメ。だけど、クリスマスくらいパ~ッとやろうよ。景気も悪いことだし。
少なくとも、今年はそういえそうだ。と同時に、こんなことも頭に浮かんだ。まちの灯が一斉に消えると、満天の星が姿を現す。それは、人工的なイルミネーションよりもはるかに美しく、感動的に違いない。
「クリスマスくらい電気を消そう」。そんな時代が、いつか来る日があるのだろうか。