記事一覧

夫婦、この不可思議なるもの 《国勢調査雑感 その7》

夫婦、この不可思議なるもの

   -夫婦の年の差アラカルト-

         東京23区研究所 所長 池田利道


友達夫婦が増えている

 夫婦の年の差。何となく気になるテーマだ。だからという訳でもあるまいが、「人口動態統計」はその年に結婚した夫婦の平均年齢差を、過去100年以上にわたり延々と発表し続けている。一方、「国勢調査」では、夫の年齢71区分×妻の年齢71区分の膨大なマトリックスデータが公表されている。

 まずは人口動態統計から。第2次世界大戦以前、夫婦の平均年齢差は4.5~5歳だった。それが2010年は2.2歳。夫婦の年の差は、戦後一貫して縮小し続けている。

 年の差が縮まって行きつく先は、「同い年夫婦」。国勢調査の大マトリックスから、東京23区の同い年夫婦の割合を夫の年齢別に整理してみよう。70代が7%、60代が10%に対し、30代では17%、10代・20代では23%。10代・20代は、70代より3倍以上も多い。

ファイル 23-1.jpg

 ※図はクリックで拡大

 国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」によると、戦前は7割が見合い結婚だった。どこの町内にも縁結びを天職とする世話焼きおばさんがおり、夫婦の年の差は「神の手」ならぬ彼女らの匙加減に委ねられていた。時代は変わり、現在は9割近くが恋愛結婚。現代人の社会的な帰属集団は、同窓、同僚など“同期”が基本となる。その中で、パートナーとの運命の出会いを探すとなると、同い年夫婦が増えるのも頷けよう。


姉さん女房は自然の摂理

 国勢調査のデータをみると、若い世代ほど多いもう1つの夫婦の年の差パターンがある。姉さん女房だ。

 俗に、「年上の女房は金の草鞋を履いてでも探せ」という。「姉女房は身代の薬」という言葉もある。しっかり者で包容力があり、夫を立てる姉さん女房は、家庭円満の秘訣と昔の人は考えた。少なくとも、女性の方が平均寿命が長いのだから、妻の方が年上というのは理にかなっている。

 「人口動態統計」による女性の平均初婚年齢は、戦前は23歳前後。戦後も1970年代初めまでは、24歳前後だった。この年齢で、経済的に安定した新家庭を築くとなれば、夫が年上になるのは自然の結果である。しかし、2011年の女性の平均初婚年齢は29歳。年下男性でも経済的基盤を心配する必要がなくなった。晩婚化が、自然の摂理への回帰を生んだといえなくもない。


練馬では、金の草鞋が良く売れる?

 23区で姉さん女房が一番多いのは練馬区。実は練馬区は、40代女性の姉さん女房の割合が27%と23区の平均(19%)を大きく上回っている。30代は21%(23区平均22%)、50代は17%(同16%)だから、40代だけが突出して高い。*

 練馬区以外で姉さん女房の割合が高いのは、中央区、江東区、江戸川区、北区の順。逆に低いのは、杉並区、千代田区、文京区、世田谷区、目黒区、港区など。2位から10位までの差は0.8ポイントしかなく、高い方に関しては統計的に有意な差があるとはいい難いが、低い方ははっきりとした傾向が読み取れる。山の手地区と都心地区が顔を揃えていることだ。

 山の手も都心も、こと結婚に関しては意外に保守的である。

* 23区平均の年代別姉さん女房の割合が図と異なるのは、図は夫の年齢別で集計しているためである。


年の差64歳に“乾杯”

 同い年夫婦や姉さん女房が増えているとはいえ、そこは夫婦。色々な組合せがある。

 例えば、年齢差が10歳以上の「年の差カップル」は6.7%。15組に1組の割合だから結構多い。さらに6.7%の内訳は、夫の方が年上5.9%、妻の方が年上0.8%。圧倒的に夫が年上が多く、姉さん女房の増加傾向とは逆の関係にある。

 年の差カップルが最も多いのは港区。以下、新宿区、中央区、豊島区、千代田区、渋谷区と続く。都心区、副都心区のオンパレードだ。やっぱり都心は跳んでいる。

 一方、少ない方は、杉並区、江戸川区、世田谷区、葛飾区、板橋区。周辺区ばかりである。地域コミュニティが根強く残り、個人のプライバシーを主張するだけでは暮らしがギクシャクする周辺区では、年の差カップルはいささか住みにくいのかも知れない。

 ところで、周辺区の中で練馬区だけは例外となる。夫が10歳以上年上の割合は23区中最低なのだが、例外は妻が年上の方。その割合は23区で一番高い。なかでも、妻の年齢44~50歳の年代では、妻が10歳以上年上の割合が6.0%と、23区平均(1.4%)の4倍以上にのぼっている。何故に練馬区の中年女性は年下好みなのか? お気づきの理由がある方は、是非教えて戴きたい。

 23区一の年の差カップルは夫80歳、妻16歳。その差何と64歳。足立区にお住まいだ。45歳の年の差で話題になった加藤茶さんもビックリだろうが、夫婦仲が睦まじければ他人がとやかくいうことではない。お幸せにと願うばかりである。

                    〈 完 〉