婚活戦線異常あり!
-東か? 西か?「男余りの深刻化」-
東京23区研究所 所長 池田利道
4人に1人は男が余る
女性100人に対する男性の割合を「人口性比」という。2010年の日本の人口性比は95。平均寿命が長い女性の方が数が多い。
0歳児の性比は105で、男の方が多い。だが、あらゆる年齢層で男は女より死亡率が高いため、男女の差は年齢が増すとともに縮まっていき、50歳を境に逆転する。
そんな理屈はどうでもいいと、男と女の数の差に身をつまされている婚活世代の人たちから叱られそうだ。25~39歳の未婚者の性比は135。男性100人に対して女性は74人しかいない。4人に1人が余る計算になるのだから、尋常な事態ではない。
若き未婚男性の悩み
未婚・既婚を合せた25~39歳全体の人口性比は102。男の方が少し多い程度である。これが135に跳ね上がるのは、有配偶者の性比が84と、女性に既婚者が多いためだ。カップルは1対1であるのに、なぜこれ程の差が生まれるのだろうか。
最近は同い年カップルが増えているようだが、夫婦は男の方が年上という考えは、日本人の中にまだ根強く残っている。このため女性のパートナーは、同世代だけでなく、年上世代にまで広がっている。
長期にわたり少子化が進むわが国は、年が若くなればなるほど数が少なくなる。しかも、冒頭に述べたとおり、中年以下では女性よりも男性の方が多い。この数少ない若い女性を、男たちが奪い合う。言葉は悪いが、「早い者勝ち」の感なきにしもあらず。その結果、男余りはどんどん加速されていく。
離別者(離婚後再婚していない人)のアンバランスが、さらに追い打ちをかける。25~39歳の離別者の性比は、女性が男性の2倍。結婚生活の夢に破れた女性の多くは、1人で生きていこうと決意する。一方男たちは、懲りずに次の相手を探す。より年上のおじさんたちも、やっぱ若い女性がいいと参入してくるから、間口は一層狭くなる。かくして、4人に1人の男が余る結果が生み出されている。
婚活チャンスは西高東低
ところがこの状況は、全国一律に生じているのではない。全国47の都道府県の中で、25~39歳の未婚者性比が一番低いのは鹿児島県の110。一番高いのは栃木県の163。両者には、1.5倍の差がある。
図は、日本列島を中部・北陸以東の東日本(23都道県)と近畿以西の西日本(24府県)に分け、東日本をグリーンで、西日本をブルーで示している。
一目瞭然だろう。性比が低く、男女のバランス差が小さい図の上部は、ブルーの西日本勢が、性比が高く、男余りが著しい図の下部は、グリーンの東日本勢が圧倒的多数を占める。婚活チャンスの西高東低傾向が顕著に読み取れる。
ちなみに、「僕の恋人東京へ行っちっち」と唄われた昔から、女性を惹きつける魅力に溢れる東京23区は、25~39歳未婚者の性比も121を示す。それでも東京23区より低い所が9府県ある。うち、4府県は近畿。5県は九州。西日本の中でも、この両地方は目立って性比が低い。
文化がもたらす性比の差?
近畿と九州で婚活適齢期の未婚者の性比が低いのは、25~39歳全体の性比が低いためである。鹿児島県の25~39歳の性比は92。子ども世代では全国と同様に男が多いが、全国平均では50歳で起きる男女数の逆転が、鹿児島県では18歳で生じる。近畿地方の代表として大阪府をみると、同様に25~39歳の性比は97と100を切る。男女数の逆転も、全国平均よりはずっと早い22歳。
18歳と22歳という年齢は象徴的だ。前者は高校卒業時に、後者は大学卒業時にあたる。学校卒業を機に、成長した子どもたちは故郷を後にする。この時、女が出て男が残るか、男が出て女が残るか。九州も近畿も女が残るから、その後の性比のバランスが維持される。
では、なぜ女が残るのか。文化という尺度を持ち出す以外、説明はつきそうもない。
関西人は飛びきり関西が好きだ。阪神タイガースへの熱狂ぶりをみても分かる。加えて、京阪神には長い歴史に支えられた優れた女子高等教育の伝統がある。近畿地方の人たちにとって、仕事上の必要に迫られる男性はともあれ、女性には地元を離れるという意識が生まれにくいのだろう。
九州は、とりわけ鹿児島は、男尊女卑の土地柄で有名だ。しかしその実、体育会系の薩摩隼人は、気立てがよくて控え目ながら、芯はしっかりしている「薩摩おごじょ」の手の平で転ばされている。男尊女卑だけなら、鹿児島の女性は県外へ出ていくはずだ。そうならないのは、もっと違う価値観が存在しているからに他ならない。
少子高齢化が深刻だと叫ばれる割には、男女の性差のアンバランスに目を向ける人は少ない。だが、事態は危機的ともいえる様相を呈し始めている。その中でサステイナビリティを実現するのは、海外直輸入のフェミニズムか、はたまた大和撫子の心意気か。
データをみる限り、すでに勝負は「なでしこジャパン」の勝利に終わった感がある。